2016年07月02日

ホタルブクロの作戦

梅雨のころ、林の縁などで見かけるホタルブクロ。子供達がこの花の中にホタルを入れて遊んだことから、ホタルブクロの名前がついたと言われますが、実際の語源は、花の形を提灯に見立てた、火垂袋(ほたるぶくろ)説の方が説得力がありそうです。
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このホタルブクロ、人里に近いところに多いホタルブクロと、山地から高山の礫地など、標高の高い場所に生えるヤマホタルブクロの2種類あります。やどりき水源林で見かけるのも、多くはヤマホタルブクロです。
外見はよく似ていますが、ホタルブクロには、がく片の間に反り返る付属片(小裂片)があるのに対し、ヤマホタルブクロにはそれがなく、ふくらみがあることで区別することができます。
ホタルブクロとヤマホタルブクロ.jpg
(野草 見分けのポイント図鑑(講談社)より <クリックで拡大します>)

ホタルブクロの特徴の一つに、雄しべが花粉を放出する時期と、雌しべが成熟して柱頭が受粉可能になる時期が、時間的にずれている。というのがあります。
まず、花が開花する前後は雄しべが発達し花粉を放出します。そして花が成熟すると、柱頭が3裂して、雌しべの時期となります。この段階ではハチにより送粉された後なので花柱には花粉は残っていません。
すなわち同じ花で、雄から雌に移り変わるというわけです。

なぜこのような仕組みをしているのか。それは、自家受粉を防ぐ目的があるからです。自家受粉では遺伝子の組合せのバリエーションが広がらない、あるいは近交弱勢とか問題が多い。それを防ぐための仕組みが”雌雄異熟”というわけです。

ホタルブクロの花粉を運ぶ有力な担い手が、マルハナバチです。ホタルブクロの花の特徴は、花の入り口が狭い、花は細長く下を向いている、蜜は花の奥にある、などです。
入口が狭いので蝶などは入れない。小さい虫は花の内側で滑って蜜までたどり着けない。ところが、マルハナバチは花柱と花の内側に潜り込み、長い口で蜜を吸うことができます。そしてこのとき、花粉をしっかりつけます。
マルハナバチにとっては蜜を独占でき、ホタルブクロにとっても、花粉を付けたマルハナバチは確実に他のホタルブクロに行き受粉してくれる。お互いに、Win-Winの関係があるというわけです。
ホタルブクロ受粉.jpg
(信州大学理学部生物科学科 市野研究室 研究内容より <クリックで拡大します>)
posted by Forester at 14:47| やどりき植物

2016年05月23日

ウツギの季節

5月も半ばを過ぎて、ヒメウツギの花期が終わり、各種ウツギが次々と咲き始めました。中でも目につくのがマルバウツギ、林道沿いのあちこちで見つけることが出来ます。
白花の多いウツギの中で異彩を放つのがニシキウツギ、紅白の花が鮮やかです。そして、バイカウツギやコゴメウツギ、ガクウツギも。なお、本家”ウツギ”は、もう少し後です。

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マルバウツギ:葉は丸みがあり、細長い葉のウツギとの違いは明瞭。ウツギが白い花を垂れ下げてつけるのに対し、上向きに思いっきり開く。ユキノシタ科

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ニシキウツギ:花は白色から紅色に変化する。ハコネウツギとよく似るが、ニシキウツギの花柱(めしべ)は花冠の外に突き出るので区別することが出来る。スイカズラ科

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バイカウツギ:ウメの花に似るのでバイカ(梅花)の名がついた。花弁はウメが5弁に対し4弁。ユキノシタ科

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コゴメウツギ:ウツギの名がついているがバラ科。多くのバラ科植物と同様に花弁は5枚。葉縁に粗い鋸歯(ギザギザ)がある。

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ガクウツギ:枝の先に散房花序をつける。縁に、萼の変化した装飾花がある。萼片は3〜5片あるが、大きさがばらばらなのが特徴。ユキノシタ科

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ミズキ:枝先に散房花序を出し、白い小さな花をたくさん付ける。この時期山野を訪れると、特徴のある、階段型の樹形に白い花がよく目立つ。

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ヤマボウシ:つぼみがだいぶ開いてきました。6月の水源林を白い花で彩ります。
posted by Forester at 21:13| やどりき植物

2016年04月26日

水源林の春も終盤戦

やどりき水源林では、11種類のウツギが4月から7月にかけて、次々と花を咲かせます。トップバッターがヒメウツギです。そして、次に続くのはマルバウツギ、つぼみが少し膨らんできました。
黄色く鮮やかなヤマブキから、真っ白なウツギへ、そして林からはオオルリなどの夏鳥の声も聞こえます。季節は、春から初夏へと移り変わって行きます。(4月23日撮影)

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ヒメウツギ:姫の名がつくように、つつましく繊細な花を咲かせます。

1マルバウツギ.JPG
マルバウツギ:つぼみが少し膨らんできました。

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ヤマブキとヒメウツギ:ヤマブキもそろそろ盛りを過ぎ、ウツギが次の主役です。

■水源林に咲くスミレ
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タチツボスミレ:もっとも普通に見られるスミレ。道端のそこかしこで目にすることが出来ます。

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ツボスミレ(別名ニョイスミレ):スミレの中で一番花が小さく、直径は1cm以下です。花は白く、内側の紫色のスジが特徴です。

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エイザンスミレ:葉に切れ込みがあるのが特徴で、見分けがつけやすい。

■水源林で見つけた、面白い形をした植物
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トウゴクサバノオ:サバノオのいわれとなった果実。果実は袋果で2個基部で合着し、横に広がる。

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ナンテンショウ:花の形からマムシグサとも呼ばれます。写真はホソバナンテンショウ。

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ウラシマソウ:花序先端から出る長い紐状突起物を、浦島太郎の釣り糸に見立て、この名がつきました。

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ヤマネコヤナギ:雌雄異株で写真は雄株。受粉後に長くなった雌花序が横に並び、背比べのよう。

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ホソエカエデ:芽鱗(がりん:冬芽を覆って保護する小片)が、つぼみが成長するに従いくるりと巻いて、面白い形をしています。
posted by Forester at 00:20| やどりき植物

2014年09月16日

やどりき水源林で見つけたキノコ

9月はキノコシーズン。やどりき水源林でも色々な形や色をしたキノコを沢山見つけることができます。そのうち形に特徴があり(見分けやすい)食用になるキノコを二つ紹介します。(9月13日撮影)

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キヌガサタケ
林道の竹林の傍に生えていました。形が純白なレースのスカートをまとったような姿で優雅なので「キノコの女王」と呼ばれているそうです。傍に行くと強い悪臭がします。高級な中華料理に用いられるそうで、中華風のスープに入れると美味しいとか。

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カラカサタケ
かさの直径が10〜25pになる大型のキノコです。かさを握ってパッと放すと原型に戻るので、ニギリタケとも呼ばれているそうです。かさの部分をフライにして食べるのが美味しいそうですが、バター炒めにして食べるのも良いようです。

posted by Forester at 21:30| やどりき植物

2014年07月15日

7月のやどりき水源林植物調査

7月13日、やどりき植物班が、やどりき水源林から雨山峠まで寄沢沿いの登山道を往復し、植物の調査活動を行いました。
シナノキ、フジウツギ、イワオトギり、ギンリョウソウ、ケイワタバコ、ヤマボウシ等々の花々を観察することができました。

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ケイワタバコ(イワタバコ科)
ケイワタバコが満開で、寄沢右岸の壁面を飾っていました。
イワタバコ同様に日蔭の岩陰に群生しますが、花茎や萼(がく)に毛が密生し、また、イワタバコが8月ごろ花期を迎えるのに対し、ケイワタバコはその1ヵ月ほど前に開花するので区別することができます。

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シナノキ (アオイ科<新分類>)
葉は先のとがったハート型で、縁に鋸歯があります。葉の付け根から散房状の花序を下向きに出し、淡黄色の花を咲かせます。
シナノキで特徴的なのは総苞葉です。写真の白っぽい細長いものが総苞葉です。苞(ほう)とは花序の基部にあって、つぼみを包んでいた葉のことです。
実が熟すと総苞葉と実が一緒に落ち、総苞葉がプロペラの働きをして、母木から遠くに散布されます。

シナノキは古くから日本人に利用され、縄文時代にはこの樹皮の繊維で縄や布を作り、縄文土器の縄目にも利用されていたそうです。
シナノキは漢字で、榀木あるいは科木と書かれますが、長野県の古名である信濃は、古くは「科野」と記したが、シナノキを多く産出したからだともいわれています。

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クワガタソウ(オオバコ科<新分類>)
花はすでに終わり、実をつけていました。
萼(がく)は大きく4裂し、2つづつ実を前後からはさむように存在します。これが兜の鍬形(兜の上に二本立っている角のような飾り→折り紙の兜を参照)に似ていることから、鍬形草(くわがたそう)と名付けられました。
ちなみに、昆虫のクワガタムシも語源は同様です。かぶと.jpg
posted by Forester at 23:37| やどりき植物

2014年06月29日

6月下旬の水源林

6月最後の日曜日、鎌倉や箱根登山鉄道沿線など、アジサイの名所はいずれも大いににぎわったようです。やどりき水源林でも、イワガラミやヤマアジサイなどのアジサイの花を見ることができました。
6月上〜中旬に水源林を飾ったウツギの花ほど数は多くありませんが、林床に控え目に咲くアジサイの白い花は、雨に濡れてなかなか味わい深いものがあります。

イワガラミ.jpg
管理棟横の杉の大木をはい上るイワガラミ。
15mぐらいの高さまで花をつけていました。ツルアジサイ(ゴトウヅル)に似ているが、白いガク片がイワガラミ1枚に対しツルアジサイは4枚なので見分けることができます。

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林床にひっそりと咲くヤマアジサイ。
ガクアジサイより細長い葉を持ち、花序や装飾花もガクアジサイより控えめです。

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リョウブ(つぼみ)
初夏の山の花が途切れる頃、白い花が房状に咲きます。

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アブラチャン(果実)
まだ若いアブラチャンの果実。水滴がみずみずしく表面を覆っていました。
posted by Forester at 22:38| やどりき植物

2014年06月02日

初夏の花「ウツギ」が開花

6月1日のやどりき水源林。先月に引き続き各種ウツギを見ることができました。
バイカウツギ、ガクウツギ、マルバウツギ、ニシキウツギなどは、そろそろ花の盛りの終わりでした。

それに代わってこれから見ごろになるのが、ウツギです。まだ多くはツボミ状態でしたが、日当たりのよいところではそろそろ開花が始まりました。
4月のヒメウツギから始まったやどりき水源林の各種ウツギは、本家ウツギでクライマックスを迎えます。

バイカウツギ.jpg
バイカウツギ
梅花空木と書きます。ウメに似た花を咲かせることからこの名前がつきました。

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ガクウツギ
枝の先に散房花序をつけます。縁に、萼の変化した装飾花があります。萼片は3枚から5枚あり、大きさがばらばらなのが特徴です。

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ウツギ
開花が始まりました。ウツギの花をさす「卯の花」は、万葉の昔から「霍公鳥(ホトトギス)」セットで詠まれており、初夏を代表する花と鳥です。
posted by Forester at 11:01| やどりき植物

2014年05月12日

やどりき水源林の各種ウツギ

5月11日は、やどりき調査活動の植物班で、やどりき水源林のウツギ調査活動が行われました。好天に恵まれ、ドクウツギを除く12種の「ウツギ」を見ることができました。

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ツクバネウツギ
花冠基部に特徴的な5枚のがく片があり、これが羽根つきの羽(衝羽根(つくばね))に似ていることからこの名前がついたそうです。
ウツギ(空木)は茎の中が空洞であることからその名前がつきましたが、ユキノシタ科のウツギが中空であるのに対し、スイカズラ科のツクバネウツギは茎の中が空洞になっていません。

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ニシキウツギ
ニシキウツギ(二色空木)の花は最初が白で、徐々に紅色になり、全体的に二色の花がついているように見えることからこの名前がついています。白い花が多いウツギの種類の中ではひときわ目立つ存在です。
撮影した5月11日は咲き始めなので、花の色はまだ白のままです。

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ベニバナニシキウツギ
ベニバナニシキウツギの蕾。ニシキウツギと異なりこちらははじめから濃い紅色です。
posted by Forester at 21:32| やどりき植物

2014年04月28日

やどりき水源林のスミレ

春の妖精、スミレの花。昨日(27日)やどりき水源林に行った仲間からスミレの写真を送ってもらいました。
日本に野生のスミレ類は50種以上、変種も含めると200種類に及ぶとのこと。花の形や色、葉っぱの形、毛の有無、托葉の有無、花の距(きょ)の形状などを頼りに見分けるのですが、なかなか厄介です。
スミレの分類では最初に茎があるかないかに分け、さらに細かく調べて行きます。
まだ丹沢・箱根辺りでは、この連休中スミレを多く見つけることができます。図鑑とカメラを持ってスミレ探しに出かけましょう。

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「ツボスミレ」
別名ニョイスミレ。スミレの中でいちばん花が小さい。花は白色で赤紫のすじ模様があるのが特徴で、茎があるスミレの仲間です。

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「アカネスミレ」
花の色が茜色なのでこの名がつきました。全体に短い毛が生えるのが特徴で、地上茎のないスミレの仲間です。

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「エイザンスミレ」
葉が裂けるスミレを見たらエイザンスミレかヒゴスミレです。葉の付け根が5つに分かれていればヒゴ、3つに分かれていればエイザン。花の色はエイザンが赤みがかっているのに対し、ヒゴは白が多い。地上茎のないスミレの仲間です。
posted by Forester at 22:30| やどりき植物

2014年04月21日

ヤマブキの季節

サクラの花が終わり、今、やどりき水源林はヤマブキの花盛りです。林道際の斜面のあちこちに、ヤマブキの垂れ下がるようにして咲く黄色い花を見つけることができます。地下茎で繁殖し、所々で群落をつくっています。
そしてヤマブキの花が終わるころ、やどりき水源林は各種ウツギの花盛りとなります。

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ヤマブキの花(撮影:4月20日)

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ヤマブキの花の近くで、コナラが芽吹いていました。地味ですが、 房になっているのがコナラの花(雄花)です。この房状の花が間もなく伸びて垂れ下がるようにして咲きます。
posted by Forester at 23:52| やどりき植物